ICT Music Session

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「音楽科教育とICT」第4回 ICT教育に対する前向きな取り組み(2015.7)

先月号では音楽科教育へのICT導入に対する否定的な意見をまとめましたが、今月は前向きに取り組む団体や人々を中心に紹介することにします。

「ONKAN ウェブネット」の取り組み

公益財団法人音楽鑑賞振興財団では、音楽の授業での電子黒板の活用事例などを収集し、ホームページで紹介するほか、オリジナルの「授業支援ツール」を使って教材ファイルを提示する方法を現場の先生に啓蒙しています。また、同財団が発行する季刊「音楽鑑賞教育」において、「今から始めよう! ICTの活用」(2012年)というタイトルの特集を組むなど、鑑賞を軸としつつ、ICT活用に関しても現場の先生に寄り添った活動を繰り広げています。

ICT活用に熱心な音楽の先生たちの団体

「ミュージック・テクノロジー教育セミナー」は、九州の音楽の先生方が中心となり、教育機器やデジタル楽器などの活用について研究を進めている団体です。結成20年目の今年、ちょうど皆さんが本誌を読む頃にセミナーが開かれ、意見交換や「デジタルコンテンツ作成&タブレット・スマートフォン活用」に関する研修が行われることになっています。

2008年にパナソニック教育財団の助成を受けた「豊中ICT音楽教育研究会」は、特別支援学校(知的障害)の音楽教育において、ムービー教材を用いたドラム演奏の指導とその効果に関する研究に取り組んだ団体。この研究の成果報告は、パナソニック教育財団のホームページで読むことができます。

「ICTを活用した授業づくりを進める会」は、ICT機器の有効活用について議論し合うことを目的とする集まりです。昨年度は「教科の特性を活かしたICT活用場面の拡張」をテーマに開催され、音楽の公開授業も行われました。

主にデジタル教科書を研究する学会が発足

デジタル教科書に関心のある人たちによって2012年に設立されたのが「日本デジタル教科書学会」。昨年度の実践発表では、24件中2件の音楽科教育関連の発表があり、内容面でもタブレットPCを使った創作、デジタル音楽教科書といった、比較的新しいテーマが取り上げられました。

音楽教育の主要学会ではICTに関する研究発表は件数が非常に少なく、日本音楽教育学会の場合は101件中1件、日本学校音楽教育実践学会の場合は40件中1件(いずれも昨年度)であるのと比べると、全教科で24件のうち、音楽科が2件というのは嬉しい数字です。今後は、緻密な検証手続きを踏んだ研究が増えていくことを期待します。

科学研究費に見るICT関連の研究テーマ

大学教員による研究としては、次のようなものがあります(( )内は研究代表者)。「音楽科の学力を育成するためのデジタル教科書の在り方」(2012〜2014、坂本暁美)、「発達障害児への音楽療法におけるICT(情報通信技術)を活用した楽曲演奏」(2014〜2016、一ノ瀬智子)、「日本伝統音楽学習のためのデジタルコンテンツの開発」「日本伝統音楽学習のためのコンテンツ制作と教材化」(2013〜2015、2015〜2018、田中健次)。そして、私が研究代表を務める「小学校におけるICT音楽学習環境の整備と『21世紀音楽室』構想」(2014〜2016)。

私の研究では、昨年度、東京都内の公立小学校において、音楽専科教員によるリコーダーの模範演奏映像を入れたモバイルPCを児童に1台ずつ配布し、自宅に持ち帰って家庭での学習を促す、いわゆる「反転授業」を行いました。

音楽科教育以外の動き

NPO法人CANVASは、子どもを対象にした参加型の創造、表現活動の全国への普及・国際交流の推進を目指して、2002年に設立されたNPOです。各地でワークショップを開いており、その中には「電子工作キットとダンボールなどの身の回りの素材をつかって、オリジナル楽器をつくろう」など、音楽関連のものもあります。音楽の先生方と連携することで、より大きな活動となる可能性があると思います。

ゼッタリンクス株式会社が進めているのが、Bits(ビッツ)と呼ばれる小さなモジュールを直感的につなげて、電子仕掛けを作る「littleBits」の学校への導入。現在、70以上の国で販売され、2000以上の学校で教材として使われているそうです。電子回路というと理科の授業での使用を思い浮かべますが、シンセサイザーを作る「SynthKit」を使えば、音楽科との教科横断的な学習が可能になることでしょう。

そろそろ紙幅も残りわずかとなってしまいました。

音楽科へのICT導入に積極的な団体や人々は、それぞれの立ち位置でがんばっていらっしゃいますが、残念なのは、学校の音楽の先生と民間の団体との間に協力関係がないこと、音楽教育の研究者と教育工学系の研究者との間の交流が乏しいことです。

先月号で紹介した井手口彰典さんの見解、「2000年以降のデジタル技術の発展とそれに伴う『作曲』『演奏』などの概念の変容に対し、音楽科教育はもう対応できないところまできているため、必要最小限度の範囲でICTを取り入れていくだけでよい」を是とするのか、民間の団体や教育工学系の研究者との協力関係に活路を求めるのか……。若い音楽の先生や教員養成大学の学生さんの意見を聞いてみたいです。

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