ICT Music Session

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これからの音楽科教育とICT(2016.3)

教育の情報化のオピニオンリーダーである堀田龍也さん(東北大学大学院教授)から、この連載の内容(11回分)に対して感想をいただきました。最終回の今月は、それらを引用しながら、これからの音楽科教育と ICTを展望したいと思います。

ICT活用事例の共有

4月号(第1回)で、私は、音楽科のICT活用を、@学習指導の準備と評価のための教員による活用、A授業での教員による活用、B児童生徒による活用に分類し、それぞれの例を挙げました。

堀田さんは、これに対して「たいへん具体的である。この三つのうち一つぐらい、音楽の授業で行うことはたやすいのではないか。もし何もしていない先生がいたら、その原因は音楽室の機材整備が不足しているせいだろうか、それとも教員の授業観の進歩が停止しているからだろうか」とコメントしています。

おそらくICTを音楽授業に活用にしている先生はたくさんいると私は思います。でも、残念ながら共有されていない。AやBについては、学会発表やブログなどを通して辛うじて知ることができますが、@は埋もれやすい。先生方の知恵を共有することが必要であると感じます。

社会とのズレを埋め、生涯学習の時代の基礎を培うためのICT

5月号(第2回)では、近年の音楽科でのICT活用はさまざまな要因が複雑に絡み合って衰退していること、その結果、音楽室が社会から断絶されていることを、電子楽器が積極的に導入された 80年代、DTM隆盛期の90年代と比較しつつ説明しました。また、6月号(第3回)では、「2000年以降のデジタル技術の発展に伴う『作品』『楽器』『演奏』『歌唱』などの変容に対し、音楽科教育はもう対応できないところまできているため、20世紀の音楽観とそれに基づく教授スタイルを保ち続けることも音楽科の選択肢の一つである」と主張する、井手口彰典さん(立教大学)の論考を紹介しました。

堀田さんは「現在、演奏がデジタル抜きでは考えられず、そうやって作品がつくられていることなどを『概念の変容』として指摘し、それを認識できていないまま『教室音楽』がレトロに続いていることを社会とのズレとして捉えている。この指摘は鋭い」とコメントしています。一方で、「今日の学校教育が生涯学習の時代の基礎を培うことを目標としている以上、社会の変化に対して一定の追従をしなければ、古典的な教育となってしまうはずだ」とも言っています。

現在、高齢者化社会の到来に合わせ、民間の音楽団体はこれまで以上に「生涯学習」に力を入れ始めています。世界中の人々がICTを活用して勉強しているのですから、学校の音楽室が「生涯にわたって音楽を学ぶための基礎」をつくる場であるのならば、ICTを「圏外」にせずに積極的に取り入れてほしい。古典的な教育になりかかっている状況に対する責任の多くは音楽教育の研究者にあると私は思っていますが、先生方にも意識していただきたいです。

音楽室のICT化、デジタル教科書研究のためのコミュニティー

8月号(第5回)では、「音楽室の ICT化を考える」として、音楽室のICT環境を提案しました。ICT化はどうしても普通教室が優先され、特別教室は後回しになるようですね。ICT化が必要だと思う先生方は、まずは授業場面に合った音楽アプリをオフラインで使用することなど、できるところから始めてみませんか。よく「管理職の先生方の考え方が古くて……」という若い先生方の嘆きを耳にしますが、私も堀田さんもその世代です。私生活ではタブレット PCを活用している世代のはず。ここにも学校と社会とのギャップが見られます。

10月号(第7回)では日本のデジタル教科書について取り上げ、指導者用デジタル教科書の目標の一つに「担任教員による音楽授業の質を専科教員のそれに近づけることがあるはず」と書きました。「専門性が要求される教科である音楽科こその重要な考え方だろう。このような研究を進めるためには、担任教員と音楽専科教員の指導の差を観察やインタビューから明らかにすることから始める必要がある。差が同定できたら、今度はその差を少しでも埋めるためのコンテンツの在り方についての検討を進めることとなる。このような研究は、音楽教育に関する学会でどの程度行われているのだろうか。また、このような研究には、おそらく教員、教科書会社、研究者が一緒に研究するコミュニティーが必要であるが、そのようなコミュニティーの形成は誰が担う役割なのだろうか」と堀田さんはコメントしています。誰がコミュニティーをつくればいいのか、そこでは現場の先生方はどういった貢献ができるのか、ぜひ考えてみてください。

女性教員が裾野を広げる

1月号(第10回)では、私が担当した教員免許状更新講習の受講者(女性)の様子にふれました。これについては、「2009年に担当した際は『電子音より生音でしょ』『子どもには自然とのふれ合いが大事』といった冷たい視線があったものの、2015年に担当した折には多くの教員が音楽教育にデジタルをどう取り入れるかについての関心が高かったことを示している。つまり、音楽教育の情報化も次第に機運が高まっている、裾野が広がっているということだろうか。これを朗報と捉えたい」と堀田さん。機械に弱いとされてきた女性の変化に注目し、期待したいと思います。
21世紀の音楽観に基づく教授スタイルを実現するために、そして音楽科の存続のために!

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