2016年1月24日(日)14:00 - 16:30 、早稲田大学法学部8号館B107教室にて、「ICT Music Session Vol.2〜3つの音楽教育現場におけるICT活用」を開催しました。
2014年7月のVol.1に続く、このシリーズの2回目では、次の3項目についてプレゼンをしました。
では、順番に解説していきます。
音や映像を載せることができない紙による卒業論文は辞めて、ウェブページによる卒業研究発表にトライしました。
ハンドソニックは、京都女子大学児童学科において、一人の学生ユーザーから下級生に自然と受け継がれている電子打楽器です。
児童館の職員さんや子どもたちが最も興味をもつ楽器、多くの打楽器を揃えることができない幼児教育現場には有効な楽器であると思います。
盤面が硬く、デザインが男っぽいのが難点。保育や教育現場に導入されるには、もう少し盤面を柔らかく、デザインを女性向きにし、低価格に設定することが望まれます。
保育者養成機関にはピアノ演奏力が乏しい学生が存在します。その一方で、管楽器・バンド・ドラム経験のある学生は増えています。
ピアノ一台でポッブに演奏することはある程度の経験者でも難しく、また、保育園・幼稚園にある小物簡易打楽器を加えてもその雰囲気をつくることは困難であるため、「ピアノ&ドラム」という形態を提案することにしました。
詳しくはこちらもご覧ください。
わずか10人のメンバーで迫力のあるサウンドを目指すために、アコースティック楽器で足りない楽器音をエレクトーンを使ってカバー(メロディ、コード、ベース)しました。
詳しくはこちらもご覧ください。
音楽プロデューサーTeddyLoidさんに、「きらきら星」のリミックスアレンジをお願いし、深見ゼミ生が演奏しました。シンプルな童謡の良さとリミックスという現代的な手法の良さを組み合わせています。
詳しくはこちらもご覧ください。
サンプラーとハンドソニックを使用し、絵本『もこもこもこ』の読み聞かせを行いました。子どもたちにとって日常的な存在である絵本と、まったく関係のなさそうな電子機材・楽器を組み合わせることで、新たな可能性があることを知っていただきたいと思います。
詳しくはこちらもご覧ください。
深見ゼミ生を指導してきた鈴來正樹さんは、電子楽器・電子機器の取り扱いについて、深見ゼミ生の優れた点と今後伸ばしてほしい点についてコメントしました。杉山裕康さんは、ウェブページ制作をサポートしてきた立場から、保育者養成機関の学生がウェブページを制作するためには(現時点では)アドバイザーの存在が必要であるとコメントしました。
井手口彰典さんは、リテラシーを問題にしているうちは、電子楽器・電子機器が保育者養成機関や学校現場に普及のは難しいという見解を述べました。
深見友紀子ミュージック・ラボでは、スタッフに元エレクトーン講師の深見、ドラマーの鈴來正樹、シンセ奏者・アレンジャーの前田遼二がいることから、発表会等において「ピアノ&ドラム」「シンセ&ドラム」の組み合わせによる演奏を行ってきました。また、鈴來は、横浜市立川井小学校の音楽科講師をしていた時に、3年生児童によるiPad合奏を行った経験があります。このアンサンブル「ゴーストバスターズ」では、「ピアノ&ドラム」「シンセ&ドラム」の先にあるものを目指しました。
YouTube より ICT Kids Band(GHOSTBUSTERS )
1つの盤面を叩くことによって、あらゆる打楽器の演奏ができる電子打楽器、ハンドソニック。教育的な可能性をもつ楽器である一方で、トッププレイヤーの演奏が人々に知られていくことも必要です。
《ニコニコ動画流星群》を耳コピー演奏をしていたAくんに、自身の演奏を録画すること、そして、YouTubeへのアップロードを提案しました。
普段、講師が注意してもほとんど受け入れなかったAくんが、自身の演奏映像を視聴し、分析を始めました。「下手すぎ。アップできない。次回までに練習する。」
その後、度々YouTubeへのアップロードを実施。(fukami.music.labアカウントから限定公開) Aくんは「限定公開で演奏映像をためていくのは好き」で、うまく録画できたときは、「お母さんの名前でアップしよう。」とコメント。誰でも検索ができ、コメントを書き込むことができる状態に対しては不安を抱いているようでした。
YouTubeへの演奏映像アップロードにおいて、Aくんが自身の演奏映像を視聴し、分析することによって、客観的な自己評価をするようになったこと、練習へのモチベーションにつながったことが成果として挙げられました。
一方で、「未成年者の安全」という観点から、13歳未満の児童はYouTubeアカウントを持つことができない(YouTubeヘルプより)こと、また、もしfukami.music.labアカウントから公開でアップロードした場合、「誰でも匿名で自由に書き込める」というインターネットの特性により、児童が誹謗中傷や辛らつなコメントを受ける危険性がある」という課題が指摘されました。
YouTubeにアップされている楽曲を視聴しながら、@音楽構造や表現方法について分析する、Aその曲をリアルタイムで耳コピーする、B理解した音楽構造や表現方法を応用する、ということを行いました。
YouTubeを参考にしたAくん自作のメドレー、「宇宙メドレー」(スーパーマリオギャラクシーより)〜山手線・京浜東北線駅着メロ「春」〜宇宙幻想〜スターダストギャラクシー
YouTube動画を活用して表現形式を分析し、その後、Aくんは自分でもその形式を使って曲作りを行いました。
楽曲をある一定のルールに基いて作曲するということが現代音楽ではよく行われますが、YouTubeからさまざまな表現方法を学ぶことによって、今後彼自身が新たな表現を生み出すことにつなげたいと考えています。
「合成」〜ハンマー動画流星群で使われている別々の曲を二つ以上組み合わせるという手法を使って、T-SquareのTruthとニコニコ動画流星群を「合成」する。
「木」と言ったら加速してしまう「この木なんの木」を、シューマン『子供の情景』「第1曲 見知らぬ国と人々について」に応用し、ドが登場する度にテンポを上げる。
YouTubeに載っている音楽を耳コピーし、その後、楽譜作成ソフトを使って楽譜化するという学習を行っています。あらかじめ用意された楽譜を読むことで読譜力の向上を図ってきた従来のピアノ学習とは異なる方向ですが、耳コピーが得意な子どもが増えている今、教師の適切なナビゲーションのもとでは有効な方法といえるでしょう。
本日は子どもにピアノを習わせている父の立場からコメントします。
我が家は共働き家庭であり、子どもがピアノの練習をするのは夕食、学校の宿題を終えた後になってしまいます。また、親にあまり音楽的な素養がないため、子どもに教えることができません。そこで、自宅の練習にICTを活用し、子どもの練習をサポートしています。
我が家で使用している音楽アプリを紹介します。
親が演奏して示すことができないので、使用しているテキストの楽譜をこのアプリでスキャンし、再生させてどのような曲であるかを確認させています。
動画をダウンロードして、原曲や模範演奏などを視聴したり、動画に合わせて演奏したりしています。原曲のイメージをつかむ、動画の著作権、動画保存アプリの合法性などに問題は多々あるのは理解していますが、ダウンロードしておかなければ練習の際に使用できません。
教師の説明や模範演奏や連弾の様子などをレッスン中に撮影し、それらの動画をYouTubeに限定公開でアップロードして、自宅での練習で活用しています。
音楽アプリが多様化する中、一般の親が自分の子どもに適したアプリを選ぶのは難しく、同様に、ピアノの先生が公開している模範演奏などから良質なものを探すことも困難ですので、音楽教育業界のナビゲートを望みます。また、適切な管理者のもと、子どもたちによる投稿動画サイトや電子発表会サイトなどがあるとよいと思います。
教育という文脈からニコニコ動画やYouTubeの文化を見ること、それらの文化が次の世代の成長過程へ意識の形成に影響を与えるということ、ネット上の資産をどのように活用していくべきなのかなどについてコメントしました。
反転学習とは何か、音楽の授業で反転学習(家庭学習)が必要であることなどについてコメントしました。
音楽専科教諭によるリコーダー模範演奏および解説動画を保存したタブレット端末を自宅に持ち帰り、家庭で練習を行い、対面授業で通奏を実施した後、卒業式で演奏を披露した。(反転学習)
小学校のリコーダー学習において技能の向上を目指した反転学習を行い、その効果を検証すること
対象児童〜東京都北区立豊川小学校2014年度第5学年児童(担任 佐藤和紀教諭) 30名
実践環境〜タブレット端末(iPad mini)を2014年4月から一人一台所有し、活用している。必要に応じて、家庭に持ち帰ることもできる。
2015年2月16日〜23日、ヴィヴァルディ『四季』より「春」を使用し、期間当初に実施したプレテストで到達度が低かった児童9名(30名中)が家庭において反転学習教材を視聴しました。
一週間後、ポストテストを行ったところ、反転群児童は非反転群児童よりも技能の伸びが有意に大きいという結果が出ました。(担任、音楽専科教員、音楽教育研究者による評価)
○佐藤 和紀・深見 友紀子・森谷 直美・堀田 龍也
小学校におけるリコーダーの技能向上を目指した反転学習の評価
日本デジタル教科書学会 2015年度年次大会(札幌)2015年8月
○佐藤 和紀・深見友紀子・齋藤玲・森谷直美・堀田龍也(2016)
小学校高学年におけるリコーダーの演奏技能向上を目指した完全習得型反転学習と評価
教育システム情報学会誌Vol.33 No.4 pp.181-186 教育システム情報学会 2016年10月
2015年3月2日〜25日の3週間にわたって、エルガー「威風堂々」Adagioの部分のリコーダー模範演奏および解説動画を保存したタブレット端末を自宅に持ち帰り、視聴しながら練習しました。期間内に3回の録画(一人ずつ)を行った後、卒業式で演奏を披露しました。
1.作成のポイント
演奏のコツを解説しながら模範演奏をする。
指づかいがよくわかるようなアングル
授業時、児童が教師を見ているのと同じアングル
2.内容
「ファ#の吹き方」に関する演奏ポイントの説明と実演(38秒)
「サミング」の演奏ポイントの説明と実演(25秒)
「前半通奏」実演(35秒)、「後半通奏」実演(56秒)
「全体通奏(ピアノ伴奏付)」実演(72秒)
「ピアノ伴奏」実演(71秒)
各児童のビデオ映像を評価者3名(音楽家T、M、J)が以下のような項目で評価しました。
評価項目
・フレージングが正しいか、タンギングができているか、曲想にふさわしい表現ができているか、息の使い方が適正か、サミングができているか、ファ#は演奏できているか、穴押さえは正確か、止まらず演奏できているか、演奏態度はどうか、計9項目(5段階)
・総合的な評価(10段階)
総合点では中位群が最も伸び、上位群に迫りました。評価項目別では、「止まらずに演奏できているか」「演奏態度はよいか」に大きな伸びが見られました。児童個別の評価では、下位群は非常に伸びる児童とまったく伸びない児童が混在していること、中位群はほぼ全員に伸びがみられること、上位群は中位群と比べて伸びが小さいことがわかりました。
評価結果の考察
・下位群で伸びない児童は、教材を見て、自身のパフォーマンスに適用していく力が乏しいのかもしれない。
・中位群はほぼ全員に伸びがみられ、ある程度の基礎力がある児童には反転学習で練習を積み重ねていく効果が見られる。
・上位群の伸びは小さい。視聴回数は多いことから判断すると、反転学習教材は上位群をさらに伸ばすことには向いていない。
今後の課題
対面授業と組み合わせることによって教育効果を高めること、評価基準の妥当性を検討することなど、今後の課題を説明しました。
〇深見友紀子・佐藤和紀・森谷直美・堀田龍也・中平勝子(2015)
小学校音楽科におけるリコーダー演奏技能向上を目指した反転学習の効果
日本教育工学会,第31回大会講演論文集 pp.489-490,電気通信大学,2015年9月
〇深見友紀子・佐藤和紀・森谷直美・中平勝子・堀田龍也(2017)
小学校音楽科リコーダー学習における一人1台端末を活用した家庭学習が技能に及ぼす効果
日本教育工学会論文誌 Vol.41 No.1 日本教育工学会 2017年5月
井手口彰典さんは、上位群が伸びなかったことに触れて、こうした反転学習教材とそれぞれの児童に対する、カスタマイズされた指導との組み合わせが大切であると述べました。
デジタル卒論、YouTubeへのアップロードなどについて意見が出ました。