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「音楽科教育とICT」第1回 そもそもICTとは?(2015.4)

今月から新連載「音楽科教育とICT」を担当することになりました。どうぞよろしくお願いします。

私は現在、保育者養成学科で教える傍ら、自身の音楽教室でICTを活用したレッスンをしています。8年間、小中学校教員養成に関わっていたことがあり、当時は音楽授業でのPC活用などに取り組んでいました。しかし、音楽科教育から離れて10年以上が経ちますので、この連載では、学校の「外」にいる音楽教育家の立場から、音楽科教育とICTに関する話題をお届けしたいと思います。

ICTは「Information and Communication Technology」の略語であり、情報通信技術(教育分野では情報コミュニケーション技術)と訳され、コンピュータやネットワークに関連するさまざまな技術やサービスを指します。

ICTとITとの違いは何?

日本では、2000年に「IT基本法」が制定された頃から、まずITという用語が一般化しました。その後、人と人、人とモノを結ぶコミュニケーション(=C)が重視されるに伴って、総務省では2005年に「IT政策大綱」を「ICT政策大綱」に改称するなど、コミュニケーションを含むICTを積極的に使用するようになり、文部科学省も「学校ICT環境整備事業」などを展開し、ICTという用語を使っています。しかし、他省などではいまだにITを使うことも多く、現在ではICTとITはほぼ同義と考えてよいでしょう。

教育工学の研究者である堀田龍也さんは、学校におけるICTを「音楽教育実践ジャーナルVol.11 No.2」(日本教育音楽学会)において「ビデオ、デジタルカメラ、DVDからコンピュータ、インターネット、電子黒板、実物投影機まで、学校現場に広く導入されている新旧デジタル機器やデジタル教材全般」と定義しています(堀田 2014)。「教育の情報化に関する手引」(文部科学省 2010)では、さらに具体的に、教科書準拠デジタルコンテンツ、デジタルテレビ放送、教育用コンテンツ、学習用ソフトウェア、デジタルビデオカメラなどを、その中の音楽科に関する記述において、音楽ソフト、ICレコーダー、電子楽器、グラフィックソフト、音楽編集ソフトなどを挙げています。

教科指導におけるICT活用とは

教科の目的を達成するために教員や児童生徒がICTを活用することであり、「教育の情報化に関する手引」では、@学習指導の準備と評価のための教員による活用、A授業での教員による活用、B児童生徒による活用、の三つに分類されています。

音楽科における事例として、@については、ワープロソフトで鑑賞用ワークシートを作成することや、インターネットを使って教材や作曲者に関する提示資料を用意することなどが挙げられるでしょう。

Aについては、児童生徒の興味・関心を高めるために、我が国および諸外国の音楽の指導において、デジタルコンテンツによって楽器の奏法や文化的背景の違いを示すことや、知識の定着を図るために、楽典のフラッシュ型教材を活用することなどです。

シーケンスソフトを使って「ふしづくり」をすること、歌唱や演奏の様子をビデオカメラなどで記録して、改善点などをみつけるといったことなどはBにあたります。

こうした事例はいずれもICTを授業に取り入れようとする先生方によって本誌上でも度々紹介されてきました。指導用オルガンをはじめとする電子楽器、CDプレーヤーなどの音響機器にまで範囲を広げるならば、ICTを一切使わずに授業をする先生はおそらくいないでしょう。つまり、音楽科はICTを積極的に活用してきた教科である(あった)というのは間違いないと思います。

近年、音楽科でのICT活用の遅れが顕著に

ところが、「いつでも、どこでも、誰でも」がコンピュータネットワークにつながる「ユビキタス社会」が現実のものとなり、スマートフォンやタブレットPCなどの新しい機器や、SNSなどのサービスが普及し、政府がそれらの動きに追随した学校教育に関する施策を打ち出した頃から、状況が変わってしまいました。

主な施策として、全児童に情報端末を持たせ、授業での活用とハード面での実証を行う「フューチャースクール推進事業」(総務省 2010〜)、学習者用デジタル教科書を使用した実証実験を行う「学びのイノベーション事業」(文部科学省 2011〜)、ICTを活用することによって、個別学習や協働学習を推進させようとする「教育の情報化ビジョン」(文部科学省 2011〜)などがありますが、これらの施策が進むにつれ、なぜか音楽科の実践例は次第に少なくなっているのです。

音楽科教育にも現在進行形のICTを

上記の機器やサービスは人々の生活に革命的な変化をもたらしたのと同様、新しい学びの方法や形態を次々に生み出していますが、新しい機器やその便利さは受け入れることができても、教育に関しては従来のやり方がよいと信じて疑わない人が多いように感じます。

確かに教育には不易な部分があります。しかし、この急激な変化の中で生まれ、育ってきた子どもたちが小学生になりつつある今、音楽科教育にも、現在進行形のICTをより「適切」に、そして「自然」に取り入れていくことが必要なのではないでしょうか。

この続きはまた来月号で。

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