月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2004年7月
祇園祭まで、電子楽器で乗り切ります!
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 京都での生活も三ヶ月目に入った。赴任したばかりというのに、私の授業は前期に偏っていて、四月以降"出たとこ勝負"の状態が続いている。無責任に聞こえるかもしれないけれど、よく準備して授業に臨んでも学生の反応がイマイチだったり、反対に不思議なほどノッてきたりするのである。そんな試行錯誤の日々を、私は電子楽器を使うことでなんとか乗り切っている。

 新任で初年度は設備備品の予算がつかないため、ヤマハ国内楽器営業本部長の三木さんや、近畿営業グループの今村さん、小池さんらのご好意により、GW明けから今年度一杯エレクトーンEl-900mを貸していただくことになった。三百名収容の音楽ホールに搬入された日、私は早速担任をしている三年生の授業で演奏したのだが、それがきっかけで学生たちと急速に打ち解けることができた。ゼミ生と親しくなるきっかけになったのも私のピアノ演奏だった。多くの言葉より音楽の力は絶大である。

 同じ日の夜、音楽棟の連絡ボードにエレクトーンが入ったことを書いたところ、「エレクトーンフェスティバルに出るので練習したい」「夏休みに五級に再挑戦するつもりなのですが、実家にしかエレクトーンがない・・」と学生から次々にメールが届いた。練習希望者は、授業の合間や放課後など、ホールが空いている時間帯に譲り合って使えるようにした。私も七月の児童学科公開講座『音楽ゲームで遊ぼう〜ボディパーカッションと電子楽器』でエレクトーンを演奏する予定である。

 五月号で話題にした、やっとの思いで富山から京都に運んできた電子ピアノ(ローランド KR-575)は、主として「保育研究法」という授業で使うことにした。ピアノの先生に向けた電子ピアノ講座はこれまでたくさん実施されているが、この授業では、それを保育士・幼稚園教諭向きにアレンジして行っている。(http://www.ongakukyouiku.com/kyotowu/)

 幼稚園で使用することを前提に電子鍵盤楽器の種類や特徴を説明したり、音色やリズム、スプリット・自動伴奏などの機能も幼児教育の現場でよく歌われている曲を例にしたり・・。ミュージックデータは「オルガン・ピアノの本3」(ヤマハミュージックメディア)の練習用データを取り上げることにした。ちょうどこのぐらいの難易度が保育士採用試験に合格するギリギリのラインと思ったからである。

 鍵盤演奏力はあまり高くはないけれど、保育士・幼稚園教諭志望の学生たちの強みは音遊びのアイデアが豊富なことだ。電子ピアノの打楽器音、効果音を使ってお話づくりをすると、ストーリーを言葉だけではなく、即座にホワイトボードに絵を描いて表現していくことができる人も多い。彼女たちに鍵盤力がもうちょっとあればなぁ。同様に、ピアノの先生にこうした遊びの才能があればなぁと思う。

 今回電子ピアノやミュージックデータを使ってみて、本誌編集部の韮塚敏夫さんが本誌六月号(四八頁)で書いていたことが実感できた。その一つは、ローエンド・ユーザーである彼女たちが関心を持つのは、ミュージックデータはメールで送受信が可能であることや、Windows Media Playerで再生することができること、着メロがダウンロードできる楽譜が登場したこと、バーチャルシンセサイザーを使うと多機能電子ピアノと同じようなことができそうだ、といったことなど、つまり、パソコンや携帯電話に関連した事柄であるということだ。若い彼女たちは、 電子ピアノは"ピアノの代用品"という常識から最も早く抜け出すことができるかもしれない。

 もう一つは、「ピアノ音+オーケストラまたはバンド演奏」のバランスが大変気になるということ。同じフロッピーに収録されている曲のデータを比較しても出来栄えにかなりの差がある。出来の良くないデータのバックの音は、輪郭がぼやけていて、さらにピアノの音に蓋をするような印象なのである。

 さて、自称電子楽器のハイエンド・ユーザーの私が使いこなせていないものが、京都女子大が三ヵ年にわたって揃えたML装置である。それとは対照的に、ハイエンド・ユーザーが玩具である一蹴しがちな電子キーボード(カシオ CTK-481、495 計約二十台)は私の授業で大活躍している。
 音の選び方にさえ気をつければ、普通教室では音量面でもまあまあ満足できるし、キャリーケース付きで購入してあるため、教室間の持ち運びも楽である。ただ残念なことに楽譜があまり見当たらない。ピアノと数台の電子キーボード、鉄琴、木琴、リズム楽器などの組み合わせは保育所・幼稚園で取り上げやすい形態なので、五歳児程度を対象にした簡単で良質な合奏譜を是非もっと発売してほしい。

 前期が終わる頃、私にとって初めての祇園祭がクライマックスを迎える。電子楽器に助けられて後少し頑張ろうと思う。

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