月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2003年12月
二十一世紀の楽器についてみんなで考えみた
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 「音響メディア概論」という授業で楽器について考えるという試みをしている。演奏の映像を見せたり、旬の情報を提供した後、学生それぞれが二十一世紀の楽器について自分が思うことを小レポートにして提出するのだが、今月は彼らの書いた「楽器の未来」を話題にしようと思う。

 「需要があって供給が生まれるのではなく、一方的に供給しているだけのような気がする」「これから期待できるものは、楽器本体というよりもエフェクターやMTR、アンプ類といった周辺機器しかないと思う」と彼らの見解は予想以上に手厳しく、本誌先月号「タウン楽器情報」で、楽器店の方々が「ヒットする商品が少ない」「かといって安定して売れる楽器がない」とコメントしていたことと残念なことに呼応している。

 「楽器は日用品ではないし、便利で実用的になる必要はない。昔ながらの味のあるものの方が逆に新鮮! だから二十一世紀もピアノやバイオリンなどの昔ながらの楽器は残り続けるだろうし、それらを無理に進歩させる必要はないと思う」「サッカー自体(楽器自体)は変わらなくてもスパイクやユニフォーム(周辺機器)は日々進化しているのと同じことが楽器の世界でもいえるのではないか」・・・・。まるで新しい楽器は生まれなくてもいいと云わんばかり。ほとんどの学生は現在すでに存在している楽器に十分満足しているのだ。

 首都圏在住ならば楽器フェアにも足を運ぶであろうと思われる楽器ファンも三、四名いた。そのうちの一人は、電子楽器のデモンストレーションを見る度に、「たとえ目一杯練習したとしても、行き着く先はこのお手本程度なのだな」と感じ、その楽器にできることの限界が見えてがっかりしてしまうことが多いと言う。奏者(人間)の能力の限界よりも先に、楽器の限界が見えるのだろう。

 彼は、「二十一世紀だからといって何か新しいものを模索する必要はないのではないか。どんなに電子楽器が進歩しても、生の楽器演奏は衰退しないということがそれを物語っている。生楽器と電子楽器がそれぞれの短所を埋めて協調していくことが大切であると思う」と音楽評論家のように締めくくっている。

 中学生の時に電子ドラムのセミナーで PA を手伝ったことがあるという学生は、「全部同じパットを使用しているため、アタック時のレスポンスはどのパーツでも同じ。つまり、レスポンスが悪いフロアタムでも簡単にダブルストロークやロールができてしまうのである。これは便利で、下手な僕にとってはありがたいのだけど、本来楽器演奏というものは、レスポンスがそれぞれ違うからこそ、音が上手く出せないからこそおもしろく、できる人を見るとすごいと思えるし、できた時に感動するのだ」とコメントする。彼は結局何年もの間電子ドラムを買うかどうか迷っているらしい。

 また、Handsonic のような電子打楽器の場合、楽器群に囲まれているという快感がないことが問題であると、打楽器経験の乏しい私が気づかなかったことも書いている。

 コメントを寄せたのは教育情報課程の二年生三十名で、コンピュータと比べると楽器に対する関心は高くないはずなのに、なかなか一家言をもっているコアな楽器マニアがいるのには驚いた。

 新しい楽器は必要ないと言う一方で、携帯電話ぐらいの値段の機器類ならば欲しいというのが彼らの本音だ。飽きてもあきらめられる値段とちゃっかり但し書きが付く。

 以下に彼らの"こんなモノかあれば"を列挙することにしよう。

 従来の演奏法でありながら、耳に届く音が新しく、衝撃的である楽器/折り畳み式自転車のような発想の、折り畳み式ピアノ/ダンスのリズムに合わせて音が出る BGM 付きタップダンス装置(明和電機のタラッターは手の指でタップするため、これとは異なる)/鼻歌を拾ってギターやピアノなどの音に変える、拡声器みたいな形で携帯ぐらいの大きさの機械/何か歌を歌ったら、声が出るのではなく、そのまま何かの音になる楽器/違った音を出し合って、一緒に演奏して楽しめる楽器/DDRや太鼓の達人のような、軽い運動になるもの/いろいろな人の声を登録しておけば、合唱ができる装置/その時の気分を曲にしてくれる楽器/投げたり蹴ったりしたら、その衝撃や風圧に合わせて、効果音や音楽が出るボール(Jリーグで使う)などなど。

 こういうアイデアの中に、果たして新しい楽器開発のヒントとなるものはあるのだろうか。それとも、これらはゲームやおもちゃ、あるいは環境装置の類なのだろうか。学生たちのレポートを読んで、正直言ってわからなくなってしまった。新しい楽器は新しい音楽表現のためにある―この理想と、目の前の現実との乖離に、私は「楽器の未来」を描けないでいる。

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