月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2003年10月
音楽の先生はコンピュータが嫌い?
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 多くの人にとって気の抜けた生ぬるいビールのようだった今年の夏。でも、冷房が嫌いで、日差しをできるだけ避けている私にとってはうれしい夏だった。一つ残念なのは、自宅教室(ミュージック・ラボ)脇に設置しているドリンクの自販機の売り上げが芳しくなかったこと。六月に他社からカルピスに替えて、機械のデザインも特注でブルーの水玉模様にしたのに、青春の味カルピスも冷夏には勝てなかったようだ。

 さて、本題。今月は、学校の音楽室のインターネット接続状況や音楽の先生のコンピュータリテラシーを話題にしよう。

 最近、文部科学省のホームページに学校における情報インフラと教員のリテラシーに関する最新データがアップロードされた。それによると、平成十五年三月三十一日現在、光ファイバーやADSLなどの高速インターネット回線をもつ学校は、小学校で52.8%(前年度末35.8%)、中学校で57.9%(同40.2%)、高等学校で75.7%(同45.4%)。この一、二年で急激に増え、おそらくあと数年で100%に近くなる勢いである。高速インターネットを使えば、高画質の動画コンテンツやテレビ会議システムを使った共同学習ができるので、より多様な授業デザインが可能になるはずである。

 しかし、別のデータに目を向けると、たとえば、平成14年度末のコンピュータ整備済みの音楽室数、LANに接続されている音楽室数は、小学校でそれぞれ4.3%、16.8%、中学校で3.9%、18.8%、高等学校で6.8%、39.1%、盲・ろう・養護学校で9.6%、37.9%しかない。中学校を例にすると、音楽室は最下位から三番目であり(最下位は教科準備室、次は家庭科室)、コンピュータ教室、職員室などから整備が進むのは当然であるにしろ、他の教科と比べてコンピュータ整備が進んでいない現実が浮かび上がってくる。

 また、これらの表をみていると、コンピュータ教室なのにコンピュータが整備されていない教室が全国には小学校で136、中学校で62、高等学校で151も存在することがわかる。コンピュータ教室なのにコンピュータがない? この不思議な結果は果たして何を意味するのだろう。

 次に、コンピュータを操作できる教員の割合は小学校で88.0%、中学校で87.1%、高等学校で89.0%とほぼ90%に近い数字になっていて、上げ止まった感があるが、コンピュータで指導のできる教員の割合になると、小学校で66.3%、中学校で46.1%、高等学校で38.1%。前年度と比較してそれぞれ5%ほど増えていて、明らかに進展している。

 だがこれに関しても、中学校、高等学校の音楽専科教員に限ると、コンピュータで指導のできる教員の割合は、34.6%、24.5%で、校種全体の平均をかなり下回っている。中学校では保健体育の次、高等学校では保健体育・国語の次に割合が低く、音楽教育のIT化の未来は決して明るくない。

 音楽科教員のリテラシーの低さをさらに裏付けるようなアンケートがある。今年二月から四月にかけて私が富山県下の教員(中学校音楽専科教員全員と、小学校教員で県の音楽研究会に所属している教員全員)に対して実施した、情報リテラシーに対する意識調査がそれだ。

 このアンケートで、コンピュータの経験、活用状況、音楽の授業でコンピュータを使用している授業時間数、音楽機器に対するリテラシー、使用している音楽ソフトなどを尋ねたところ、コンピュータを使って音楽の授業をしたことがある先生は小学校で19.0%、中学校で39.0%という結果が出た。一年間の使用平均時数は小学校で2、中学校で3、(内、ネットワークを使うのはそれぞれ2、1)である。

 使わない理由の主なものは、「音楽室にコンピュータがない」、「やり方がわからない」、「ソフトがない」、「余裕がない」、「難しい」、といった消極的な否定と、「必要性を感じない」、「音楽は実音でやりたい」、「低学年は体をいっぱい使った授業をしたいから」、といった積極的な拒絶のふたつに分かれた。

 目新しさに頼ったり、新しい手段を使うことで指導の能力が上がったと錯覚してはならないのと同様、「必要性を感じない」と頑なに拒絶したり、大人の独断によって、わかりやすく、ワクワクする新しいメディアから子どもたちを遠ざけてならないと思う。体を動かすことや音を媒介にした直接的な触れ合いは確かに大事であるが、新しいメディアを活用することと体を動かすことは両立できるはずだし、コンピュータ・ネットワークによる間接的な関わりがあるからこそ、直接的な触れ合いが生きてくることもあるのではないだろうか。

 音楽教育のIT化は、音楽の先生のコンピュータリテラシーよりも、柔軟性を問うているようだ。

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