月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2003年8月
教育学部生に最も人気がある音楽系サイトは?
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 四月から夏休みまでは、通常の授業に新入生に向けたイベントや教員採用試験対策などが加わるため、毎年最も忙しい。今年はさらに定年退官に伴う教官定員の削減によって担当コマ数が増え、その合間を縫って論文を二本書き、共著の原稿を仕上げるという充実(?!)の日々だった。だが、自分では充実しているつもりでも、大学や自宅にこもり、どこにも出掛けないこうした時期に限って、このコラムのネタが底をついてしまうのである。

 そこで今月は、「初等科音楽科教育法」を受講している学生約九十人による“一押し音楽系サイト”レポート報告、つまり授業ネタでしのぐことにしようと思う。

 このレポートは、音楽教育ドットコムのリンクに載っているお勧め音楽系サイト約五十のうち、自分が小学校で音楽の授業を受け持った時に最も役に立つと思われるサイトを一つ以上あげて、その理由を書くというもの。ウェブコンテンツの教育的利用を研究している私にとっては、身近で若い人たちの意見を収集できる絶好の機会でもある。

 人気が高かったのは、「日本の伝統音楽」、「Musical Zoo動物楽器図鑑」、「おんがく・じてん」。続いて「JASRAC PARK」「邦楽らんど」「ラテンの学校」「MusiCreature」「こども図書館」「SkyDogSite  沖縄音楽」「なつかしい童謡・唱歌・わらべ歌・寮歌・民謡・歌謡」「学校教育支援のページ MUSIC PAL」。

 人気NO.1の「日本の伝統音楽」は、日本の音楽の歴史やジャンル・和楽器に関する詳しい解説が載っていて、多くの楽曲を実際に聴くことができるサイトである。このサイトを推薦する理由は、(1) 日本の音楽史の流れを時代別におおまかにとらえることができて便利。(2) 写真やイラストが「これぞ、日本! 」というものばかりでインパクトがあり、日本の音楽の雰囲気がつかめる。(3) それぞれの時代の音楽について、それらが広まった時代的背景が書いてあるので、歴史そのものの勉強になる。(4) 中学校で邦楽器の演奏が必須になったが、ほんの少し真似事のような実技をやるぐらいだったら、こういうページで日本の音楽に関する知識を身につけたほうがいい、(5) 専門用語が多く、難しい漢字が使用されている点は少し気になるけれど、小学校高学年の調べ学習にも適している。などなど。

 「日本の伝統音楽」と人気を二分したのは、かわいい動物たちが森の音楽家のイメージで管・弦、打楽器の仕組みや成り立ち、演奏の仕方、代表的な曲などを解説する、ご存じ「Musical Zoo 動物楽器図鑑」だった。学生たちのコメントは以下の通り。(1) 説明の文章に出てくる漢字にはフリガナがついているので、低学年の授業でも使える。(2) パイプオルガンなど、音楽室にはない楽器に対する興味づけになる。(3)”なかま”というメニューを活用すれば、一つの楽器からさらに関心を広げていくことができる。(4) 音楽の時間は歌って演奏するものであるという常識を変え、音楽を違った方向から楽しむことができる。

 その他、画面にドットを置き、絵や模様を描くとそれが音楽になる「MusiCreature」や、マウスで箏の疑似体験ができるマウスでころりん実験室をもつ「邦楽らんど」など、音楽が作れるサイトを薦める学生も結構多かった。また、音楽が苦手という学生は「おんがく・じてん」が、音楽科の学生は、「ラテンの学校」が気に入るという傾向が見られた。

 教育学部生は、ウェブデザインの技術的な側面にはあまり注目しない反面、フリガナの有無、漢字の多寡などの点から、何年生なら使えるかといったことにとても敏感である。ウェブコンテンツにはどの年齢層を対象に提供しているのかはっきりとしないものが多いため、授業で活用するためには、教師があらかじめ勉強しておくためのサイトなのか、一斉授業における提示型として使うのか、子どもたちの習熟度別学習あるいは調べ学習のためのサイトなのかを見極めることがまず必要なのだが、彼らにはそれができそうである。

 二十歳そこそこの若者が「僕が子どもの頃は、インターネットで音楽の勉強ができるなんて考えもしなかった。今の子どもたちはいいなぁ」と書く一方で、十年という長いスパンでみてもほとんど変化しない音楽の授業があり、指案などのマニュアルがないと不安な現役教師たちがかなり存在する。音楽科の現状と日々更新するサイトのそれとは本質的に相容れないとも言える。ウェブコンテンツが学校教材として活用されるようになるまでには、まだ相当に紆余曲折がありそうだ。インフラの整備と若い世代に期待するしかない。

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