サイトを活用した学習指導案

- 教育情報ナショナルセンターの日本音楽素材を使用した指導案 -
No.2 文楽の魅力に親しもう
深見友紀子(協力:竹内有一)

■ 教科書

 日本の伝統芸能 文楽(教育芸術社2・3下、P36-37)

■ テーマ

 文楽(人形浄瑠璃)の三つの職掌である太夫、三味線、人形、それぞれについて表現の特色に親しみ、三つの共同作業によって成立する総合的舞台芸術への理解を深める。

■ 留意点

 能・文楽・歌舞伎のような総合的芸術の場合、とくに実際の公演の場の空気(雰囲気)を体験することが何より大切である。校外学習や課外活動との連携等を活用したい。

■1 文楽の舞台の概説

 実際の公演を収録したコンテンツ1・2をみて、文楽のイメージをつかむ。太夫と三味線の演奏する「床」は両コンテンツでは映っていないので、コンテンツ3・4も併用して、実際の舞台の状況を確認しながら、さまざまな独自の工夫を理解する。

◇ コンテンツ1
 mpg【三大名作1〜菅原伝授手習鑑】
 菅原道真を主人公とし、筑紫に流され憤死の後、藤原時平に復讐を果たすまでを描く。四段目「寺子屋の段」は、道真公に恩を受けた松王丸が道真の子の身代わりに我が子を差し出す(桶の中に首)という悲劇の場面。
◇ コンテンツ2
 mpg【近松3〜冥途の飛脚】
 飛脚問屋の養子忠兵衛が遊女梅川の身請のために公金に手をつける場面。その後二人は故郷の大和・新口村(にのくちむら)に逃れる。忠兵衛の実父孫右衛門は、迫る追っ手から二人を逃がし、涙ながら後を見送る。
◇ コンテンツ3
 jpg×3【文楽の劇空間】 【語りの力】 【人形の魅力】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 概要⇒ 文楽とは何か)
◇ コンテンツ4
 mpg×3【客席と舞台】 【床】 【船底】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 舞台⇒ 舞台の構造)

■2 ひとりで何役? 太夫の懐深さを味わう

 語りの表現を収録したコンテンツが充実しているので、これらをクイズ形式で活用する。
 下記のカテゴリーと、それに対応するコンテンツ(太夫の語り)を、生徒たちの想像力によって結びつけるように導く。組み合わせを少しずつかえたり、ヒントを与えたり、語りのまねをしたりして、楽しみながら進めたい。また、文楽以外の芸能や演劇、テレビドラマ等での表現も思い出しながら、表現の共通点や相違点を比較してみたい。
 下記のコンテンツは、太夫と三味線のみの収録なので、各コンテンツに対応する作品の人物を描いた錦絵や、当該作品の人形がうつる舞台写真を、書籍やインターネットで探してきて援用すると効果的である。
 コンテンツ7・8はかなり繊細な表現であるが、映画やテレビドラマ等でも同様の深みのある表現を行うことがあるし、われわれの日常生活でもそういう場面があり得るものである。日頃の「取材」を心がけて授業に活用したい。
 コンテンツ9は作品や詞章の内容を補足説明しないとわかりにくいかもしれないので省略可。

◆ カテゴリー1
武士(コンテンツ1)
お姫様(コンテンツ3)
町人・男(コンテンツ2)
町人・女(コンテンツ4)
◆ カテゴリー2
笑い・天下をねらう悪人(コンテンツ5・6)
喜び転じて泣く(コンテンツ7)
心で泣きながら笑う(コンテンツ8)
(驚く男・泣く女・驚く老人が少しずつ連続で(コンテンツ9))
◇ コンテンツ1
 mpg【太夫の語り1〜時代物の男性】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 語り手〜太夫(たゆう) ⇒ 語り手〜太夫(表現))
 箏(こと)は、桐材のかまぼこ型をした長い胴の上に13本の弦を張った弦楽器で、長さはいろいろありますが、154〜194cm くらいのものが一般的です。元来は、奈良時代に中国から伝来した雅楽で用いられた楽器です。[千葉優子]
◇ コンテンツ2
 mpg【太夫の語り2〜世話物の男性】
 世話物の表現は、時代物よりリアルでテンポも早い。近松の「冥途の飛脚」に出てくる忠兵衛は、馴染みの遊女を身請けするために公金に手をつける。思わずかっとなり大罪を犯す主人公の若さが、表現されている。
◇ コンテンツ3
 mpg【太夫の語り3〜時代物の女性】
 着物を着たお姫様の例。義太夫では、お姫様らしく上品に聞かせるためには、現実の女性の真似をするのではなく、自分の地の声で、間(ま)やテンポを工夫しながら、それらしく語らなければならない。
◇ コンテンツ4
 mpg【太夫の語り4〜世話物の女性】
 世話物の女性の例。夫の帰りをじっと待つ若い女房・お園の苦しい心情が切々と語られる。語りだけでなく三味線の音色も、女の純粋な優しい心を表現していて語りを補う。「艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)」
◇ コンテンツ5
 mpg【太夫の語り5〜笑い1】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 語り手〜太夫(たゆう) ⇒ 語り手〜太夫(技法) )
 時代物の笑い。天下を狙う悪人の不敵な笑いが、はじめはゆっくりしたテンポで表現され、不気味な人物像を表わしている。「管原伝授手習鑑」の時平
◇ コンテンツ6
 mpg【太夫の語り6〜笑い2】
 時代物の笑いの続き。徐々に笑いの間隔が狭まって行き、最後にひときわ大きな笑いとなる。不気味さに加えてその人物スケールの大きさを誇張して表現している。「管原伝授手習鑑」の時平
◇ コンテンツ7
 mpg【太夫の語り7〜泣き1】
 恩ある人のためにわが子を身代わりとして殺さなければならなかった苦しい胸中。わが子が立派にその役目をしおおせた事にほっとして、それまでの緊張がゆるむが、すぐに悲しみへと変わる。「管原伝授手習鑑」の松王
◇ コンテンツ8
 mpg【太夫の語り8〜泣き2】
 最愛のわが子を失った悲しみに、声を上げて泣きたい気持ちを抑え、松王は笑いに紛らす。高度な表現方法が語り手に要求される場面である。「管原伝授手習鑑」の松王
◇ コンテンツ9
 mpg【太夫の語り9〜語り分け】
 浄瑠璃の内容を的確に伝えるため、声のテンポや高低を変えて語り分けをしている例。寝込みを襲われ驚く男、捉えられ泣き崩れる女、突然のことに驚く老人と語り分けている。「伊賀越道中双六」沼津の段

■3 舞台裏を覗く―太夫(教科書の補足)

 太夫の舞台道具や姿勢などについて教科書に記述されているので、さらに下記のコンテンツを活用してより立体的な理解をうながす。

◇ コンテンツ1
 mpg【太夫の姿勢1〜腹帯(はらおび)】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 語り手〜太夫(たゆう) ⇒ 語り手〜太夫(こしらえ))
◇ コンテンツ2
 mpg【太夫の姿勢2〜オトシ】同上
◇ コンテンツ3
 mpg【太夫の姿勢3〜すわり方】同上

■4 三味線繊細な表現力

 語りだけでなく、三味線の旋律や音色が、カテゴリーに示したようなさまざまな情景描写や心情をあらわすことがある。そうした事例を、コンテンツによって理解し、興味を深める。
 3と同様、単に解説するだけでなく、クイズ形式を取り入れながら、生徒の関心を引きつけるように工夫したい。クイズに使用するコンテンツの組み合わせは、カテゴリーや音の特徴を事前によく確かめて、難易度を考慮しながら、さまざまに組み合わせたい。
 情景や心理の特徴が、三味線のどういうところに表れているのか、いないのか、感想を述べ合う。また、文楽以外の音楽では、似たような表現法があるか、ないか、考えてみる。

◆ カテゴリー
情景・風(コンテンツ1)
情景・鐘(コンテンツ2)
心理・男の泣き(コンテンツ3)
心理・女の泣き(コンテンツ4)
心理・悲しみ(コンテンツ5)
心理・喜び(コンテンツ6)
◇ コンテンツ1
 mpg【三味線の表現1〜情景1風】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 三味線⇒ 三味線(表現))
 柳の枝がかすかに揺れ、生暖かい風がどこからともなく吹いて来る。幽霊でも現れそうな気味の悪い雰囲気を、三味線の音色だけで現している。
◇ コンテンツ2
 mpg【三味線の表現2〜情景2鐘】
 遠くの方からゴーンとかすかに聞こえてくる鐘の音と、近くで何か事件が起きそうな気配を感じさせる鐘の音。浄瑠璃の文章に書かれている情景を、聴覚的に表現する効果音の一種である。
◇ コンテンツ3
 mpg【三味線の表現3〜心理1泣き:男】
 男の泣き方。女の泣き方に比べて、低い音階で間(ま)を大きくとって悲痛な男の泣き方を表現している。
◇ コンテンツ4
 mpg【三味線の表現4〜心理2泣き:女】
 女の泣き方。音の高低や強弱、間(ま)の変化で、同じ旋律ながら男女の泣き方の違いを弾き分けている。
◇ コンテンツ5
 mpg【三味線の表現5〜心理3哀しみ】
 わが子の死を悼んで、夫婦が野辺の送りをする場面。繊細な撥捌きとツボを押さえる左指を微妙に振動させることで音に余韻と幅をもたせ、哀切きわまりないこの場の状況を的確に表現している。
◇ コンテンツ6
 mpg【三味線の表現6〜心理4喜び】
 信心深い夫婦の祈りによって奇蹟が起こり、病が癒えた時の喜びを表わす。三味線が派手な旋律を明るく弾き、互いに喜び合う夫婦の心情を文章以上に表現している。

■5 (補足的学習) 三味線の種別による表現の差異

 文楽の三味線(コンテンツ1・4)をきっかけに、他の三味線(コンテンツ2・3)との違いを意識する。

◇ コンテンツ1
 mpg【三味線の種類1〜太棹ふとざお】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 三味線⇒ 三味線(役割と楽器))
◇ コンテンツ2
 mpg【三味線の種類2〜中棹ちゅうざお】
◇ コンテンツ3
 mpg【三味線の種類3〜細棹ほそざお】
◇ コンテンツ4
 mpg【太棹の特徴】

■6 (補足的学習) 人形遣いのチームワーク

 教科書における三人遣いの説明を踏まえ、コンテンツの映像を活用してさらに理解を深める。どうして一人でなく三人で行っているのか、について、以下のコンテンツの映像を見る前に、想像しながら議論を行うのもよいだろう。

◇ コンテンツ1
 mpg【三人遣い1〜主遣い(おもづかい)】(文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 人形⇒ 人形(うごき))
◇ コンテンツ2
 jpg【三人遣い2〜舞台下駄】
◇ コンテンツ3
 mpg【三人遣い3〜左遣い(ひだりづかい)
◇ コンテンツ4
 mpg【三人遣い4〜歩く】
◇ コンテンツ5
 mpg【三人遣い5〜拾う】
◇ コンテンツ6
 文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 人形⇒ 人形(かたち)
 文楽(人形浄瑠璃)入門⇒ 人形⇒ 人形(こしらえ)
 6の中のいくつかのコンテンツも必要に応じて使用する。人形は、その仕組みや動きといった工芸品的な視点からも、生徒の興味を惹きやすいだろう。

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