月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2004年9月
最後のコラム
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

  今年二月にお会いした京都のJEUGIA会長、田中義雄さんは、「初めの頃は読んでいたのですが・・・。」と申し訳無さそうにおっしゃった。(初めの頃とはいつ頃までなのだろう)「トレードの連載、いつまでやるの? そんなに長く続けては駄目だよ。連載を依頼する時、僕はいつも全十回でお願いしているよ。」これはつい先日お会いした東京学芸大名誉教授、高萩保治先生のコメント。(打ち切らなかった本誌編集部が悪いということ?(笑) )
 そんな中、この連載「電子楽器と音楽レッスンパートII」はついに最終回を迎えた。「深見さんのコラム、一応百回でピリオドを打ちませんか」と編集部に言われてから一年ほどが過ぎ、今月でちょうど百回目。平成五年七月号から平成八年五月号までのパートIを合わせると百三十五回目になる。毎月同じ字数の原稿を書き続けて足掛け十二年。私は十二年分老けたし、勤務先は二度変わったし、私生活のパートナーも変わった(これは一度のみだけど)。

 この連載の話をいただいた時、私は二回目の出産で入院中だった。病院のロビーにある公衆電話まで看護婦さんに車イスで連れて行ってもらって、編集部に連絡をした記憶がある。「電子楽器を使った新しいレッスンをテーマに連載をお願いしたいのですが・・・」という電話の向こうの声に、「退院したらやらせてもらいます。」と朦朧と答えた。当時、双子の妊娠で私は一時危篤になり、絶対安静の身だったのだ。

 その後、連載三年目で富山大の音楽科教育担当に赴任。東京の音楽教室、ミュージック・ラボもそれまでのペースではやれそうもないので、学校の音楽教育や大学の話題なども含めるなど、内容に若干の変更を加えることを編集部に認めてもらった。ここからがパートII。
 予想通り、この頃から電子楽器や音楽レッスンの話題だけでは書けなくなった。短大の電子オルガン科非常勤講師をやめたことや、週末のみ開くようになった教室の生徒が全員ピアノの生徒になったこと、八十年代後半から九十年代初めにかけて電子楽器を使って取り組んでいた実践をコンピュータに置き換えるようになったことが主な原因だった。しばらくしてインターネットを使った音楽教育に関わるようになって、益々その傾向に拍車がかかり、電子楽器や音楽レッスンについて知りたい人には拍子抜けするコラムになってしまったのだろう。

 でも、仕方がなかった。振り返ってみてやはりそう思うのだ。

 ヤマハのエレクトーン講師だった時に、指導法の開発と音色づくりに余念のない周りを横目に見ながら、一つの楽器に関するノウハウよりも、もっと広くテクノロジーと音楽教育について考えるほうが大切と思って大学院に進んだ私は、基本的に"この道一筋タイプ"ではなく"何でも屋"なのである。その後、学校の音楽教育、コンピュータ、インターネットへと、さらに今年度からは乳幼児の音楽活動、子ども文化にまで広げることになってしまったが・・・。 手を広げれば広げるほど、各々については専門性も低くなるので、知識や経験の不足から言い知れぬ焦燥感に襲われることもある。しかしその一方で、音楽教育に関することならばどれ一つとっても「これは知らない」と言い訳はしたくない、もう一人の自分がいる。私の目標は、─電子楽器・音楽レッスンから音楽教育へ、そして教育へ─ということにとりあえずしておきたい。新しい楽器やソフトが出るとそれを使った指導法を紹介し、次の製品が出たらまたそれを繰り返すという仕事は自分には精神的に向いていないし、かといって、時代が大きく変わろうとも何一つ変えようとしない人が大多数を占める、音楽レッスンや学校音楽教育の世界にどっぷり浸るのはあまりにも辛いのである。

 私の個人的な志向はさておき、一般的にも、成熟期を迎えてかなりの歳月が経過した電子楽器やレッスンは、事例の紹介やノウハウに関する意見交換に終始する時期ではないと感じている。電子楽器でも、電子楽器教育でも、鍵盤教育でもなく、強いて言えば音楽演奏に関する研究会にしか思えなかった先日の「全日本電子楽器教育研究会」シンポジウムの方向転換は、八十年代以降の電子楽器や音楽レッスンが大きな転換期に入ったことを象徴していたのではないだろうか。それはさまざまな分野で同時多発に起こっている地殻変動のようなものに違いない。私はこれからも自分の持っている幾つかの音楽教育の窓を全開にして、そうした変化を眺めていきたいと思う。

 タイトルとかけ離れたコラムの執筆を寛大に認めてくださった編集部に感謝します。特に森春潮さんと川和純子さんには大変お世話になりました。最後になりましたが、長い間読んでくださった読者の皆様、どうもありがとうございました。二〇〇二年十月以降のこのコラムは、私のサイトでご覧いただけます。

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