月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2004年5月
桜満開の季節に、楽器とともに上洛した
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 いよいよ京都での生活がスタート!!四月一日付で京都女子大学発達教育学部(平成十五年度までは家政学部)児童学科に転任した。新任式、研修、オリエンテーション、歓迎会、学科会議、教授会などが次々とあり、その合間に研究室やマンションの片づけをしているうちにあっという間に授業が始まった。

 住まいは四条河原町のマンションにした。高島屋と阪急には徒歩二分、auショップ、FANCL HOUSE、AMO'S STYLE、マツモトキヨシ、CITY BANKなど、いつも行く店舗のほとんどが徒歩圏にあって超便利。マンションの傍の高瀬川、木屋町通りの桜は絶景で、まるで絵葉書のようである。 夜、大学からの帰り道、バスの窓から見える祇園のネオンの眩しさも不思議な世界。目がクラクラしそうだ。普段通う近所のスーパーはなんと南座の脇にある。喧噪が嫌いな人には耐えられない環境かもしれない。でも、大阪の難波生まれの私は、なぜか無性にウキウキしてくるのである。

 本誌の原稿の締め切りは毎月十日なので、月が変わると「次回は何について書こうかな」と考え始めるのが常なのだが、今月はこの京都のモードにすっぽり入り込んでしまい、ふと気づくと既に十日になっていた。
 転任に際して、富山大学からコンピュータや周辺機器、電子楽器などを運んだ。科学研究費で購入した物品は他大学に移管できるのだが、その他に、四年前の年度末に学科で買った、私以外の先生は触ったこともない電子ピアノも了承を得て譲り受け、京都に持ってきた。富山の楽器店にこの電子ピアノの運搬費を尋ねたら京都までだと約五万円と言われたので、先月号で話題にしたエレクトーンと同様、大学院生の李楽友くんに分解・梱包してもらい、他のたくさんの電子機器、書籍などと一緒にコンテナで運ぶことにした。中身は何かと尋ねられたら、「スピーカーセット」あるいは、「鍵盤付きDTMセット」などと言う心づもりにしていたのに、何も聞かれず済んだ。運搬費は、富山大学生協の引越二割引サービスを利用して、総額一万八千円ぽっきり!

 確かに楽器は専門の業者に運んでもらうのがベストである。安心できる。私もこれまでそうした方々の恩恵を一杯受けてきた。でも、もし五万円もかかるのなら、おそらく私はその電子ピアノを京都に持ってこなかったと思う。そして、きっと誰も弾かず、十年以上経って廃棄処分する時になって、「これは昔うちの大学にいた電子楽器好きの深見という先生が使っていたものでね。彼女が別の大学に移ってから誰も蓋さえ開けていないよ。」などということになったはずである。大学では残念なことに教官の異動に伴う "お蔵入り"が頻繁に起こる。

 私の新しい研究室にも電子ピアノがひっそりと隅に置いてあった。「僕が三年前に来た時から置いてあったもの」と前任者の野村誠さん。その電子ピアノは三年間一度も弾かれたことがなかったという。何はともあれ、富山から楽器を持ってきてよかった。京都で組み立てた電子ピアノは早速授業で使うことになり、ML教室に設置することになった。

 さて、楽器の運搬・設置よりもっと大変だったのが、その野村さんの研究室の片づけだった。野村さん(楽器メーカーにはまだあまり知られていないけれど、東京芸大をはじめ多くの大学から講師として招聘されている、若手作曲家)がわずか三年間で作りあげた「遊園地」さながらの研究室を、その中身を一つずつ確認しながら、"お掃除救助隊"のように片づけていったのだ。研究室に残してくれた書籍も私が前から読みたかったものばかり。勉強しなければ!

 京都女子大学は関西私立女子大御三家というだけあって真面目な学生が多い。おまけに明るい雰囲気の人が多く、とても人なつっこい。知り合ったばかりの私にも臆せず話しかけてくる。さまざまな音楽活動、子どもたちとの触れ合いを通して、彼女たちの可能性を引き出したいと思う。また、手遊び、絵書き歌、身の回りの材料を使った楽器作りなど、日常的に幼児教育現場で行われている実践に電子楽器やコンピュータを組み合わせて、子どもの音楽教育を変革していきたい。野村さんが「遊園地」でやっていた新しい試みも私なりにしっかりと引き継いでいこうと思っている。文化と生活、大学が密着した京都だからこそ、何かできそうな気がする。先のことはわからないけれど、ひとまず五年間、京都(と東京)で頑張るつもりだ。

 最後にお知らせを一つ。四月一日、札幌在住の元富山大学大学院生、杉山裕康さんの全面サポートのもと、私のオフィシャルサイトをリニューアルオープンしました。授業のシラバス、この連載のバックナンバーも掲載。是非ご覧下さい。
http://www.ongakukyouiku.com/index.html

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