月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2004年2月
教育の情報化の風は音楽室には届かない
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 今月は、昨年の春、富山県の小学校・中学校教諭に対して、同じく夏に東京都の中学校教諭に対して行ったコンピュータ・ネットワークのリテラシーに関する実態調査について報告することにしよう。
 富山県の中学校音楽専科教諭については、教育委員会を訪ねてアンケート実施の許可をもらった後、百十八名に挨拶文とアンケート四枚(八頁)分、切手を貼った返信用封筒を入れて郵送することになった。切手は年度末残っていた大学の予算を使ったが、回収率は五十%、五九名(百十八名中)に留まり、八十円×五九名分の切手が無駄になった。長時間のホッチキス止めに疲れ、封筒詰めで手が荒れ、その上もし切手代が自分のポケットマネーだったらもっと虚しい気持ちになっていたはず! アンケート調査のしんどさを初めて実感した。
 そこで、富山県の小学校教諭(県の音楽研究会に所属している人たち)の分は、一ヶ月ほど先に各ブロックの研究会があるというので、知り合いの先生からそれぞれのリーダーに配布してもらい、その場で記入してもらうことにした。回収率は八二%、百八四名(二二四名中)。随分楽だった。
 東京に関しては、文京区立第十中学校教諭の滝浦盛先生の協力で、都中音研のDMの中に入れてもらうことになった。約七百部のホッチキス止めの作業がほぼ終わりに差し掛かった時、工学部にはそれを自動でやってくれる百万円ほどする特殊な機械があるということを知り、ため息が出た。富山の中学校と違って返信用の封筒は入れなかったのだが、回収率二十一%、百三七名(六五四名中)。この数字は予想を遙かに超えた好回収率だった。

 集計は埼玉栄北高校の情報科教諭、綿貫俊之さんが授業で多忙な合間にやってくれた。この結果は「音楽科担当教員における情報リテラシーに関する意識調査」として近々音楽教育ドットコムにアップロードする予定なので、詳しくはそちらをご覧いただくとして、ここでは東京都の結果の中で興味深い数字をお知らせすることにする。
 「あなたの学校の音楽室にはコンピュータはありますか。」常時設置:五.一%、持ち込み:十五.三%、無し:七九.六%。「あなたの学校の音楽室はインターネットに接続できますか。」できる:五.一%、できない:九四.九% ・・・接続できるのに使っていないだけではないのかと疑いたくなる低数字である。また、コンピュータの使用経験無しが八.八%、ネット接続経験無しが十八.二%、最近の1日におけるインターネットの平均利用時間がゼロの人が三五.〇%、電子メールアドレスを持っていない人が二六.三%、電子メールを使ったことがない人が二九.九%、それぞれ存在している。ビジネス界などでは考えられない数字だ。
 「あなたはコンピュータを使った音楽授業をしたことがありますか。」「インターネット上のコンテンツを使って授業をしたことがありますか。」という質問に対しては、あると答えた人がそれぞれ二四.一%、二.二%。回答者の平均時数は一年間に十.六時間、そのうちネットワークを使う時数は一.九時間だった。インターネットを使う授業はまだほとんど行われていない一方、ヘビーなコンピュータユーザーもかなりいることがわかる。

 使わない理由は、「必要だと感じない、活用に魅力を感じない、体を使った実技が大切」といったコンピュータ活用否定派と、「トラブルが不安である、指導力の不足、研修や時数の不足」といったどちらかというとコンピュータ活用不安派にわかれた。
 音響面のリテラシーに関する問いについては、「コンピュータのスピーカーやヘッドフォンを使って音を出力させることができない」が四七.四%、「オーディオ機器などを介してコンピュータから音を出力させることができない」が七一.五%、「プラグインなどを使って音の出るホームページの音を聞くことができない」が六五.七%、「マイクとソフトウェアを使ってコンピュータに音声を入力することができない」が八三.七%といずれも低水準。学校教諭にとって、“コンピュータ=ワープロ(一太郎)と成績処理”という現状を改めて確認することになった。
 ソフトウェアに関しては、シーケンスソフトを使う人が三五.〇%、授業でシーケンスソフトを使う人が八.〇%、シーケンスソフト以外のソフトを使う人が四.四%、授業でそれらを使う人が二.二%という結果が出た。これはおそらく街のレスナーより低いのではないだろうか。各種の学校用ソフトが発売され、九十年代には幾つかの実践事例集も出たけれど、授業時数の削減、教員のリテラシー、予算などの壁は高く、中学校音楽科は中学校合唱科と言い換えてもいいぐらいの現実があるようだ。
 現在このアンケートはハングルに翻訳を終え、韓国での実施を交渉中である。日韓比較の貴重な資料になるし、あまり先になるとIT化は益々進んでしまうので、できれば今年中に実現させたいと思う。

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