月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2004年1月
いい日旅立ち 西へ 〜なぜ私は京都に行くのか〜
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 謹賀新年。パート1から通算すると十二年目の二〇〇四年もどうぞよろしく!
 街の音楽教室、ミュージック・ラボの話題が中心だったパート1から途中でパート2に変わったのは、富山大に勤めることになったからだったが、あれから八年、今春私は京都女子大発達教育学部児童学科に移ることになった。
 「男の専売特許、単身赴任を女もやってみる」と威勢よく始めた東京と富山との往復暮らし。でも、単身赴任や二重生活をしている人が「四年目あたりが最もしんどい」と口々に言う通り、四、五年目に相次いで公募選考に落ちて東京に戻りそこなった頃、私も精神的にめげた時期があった。隣接分野の実力派若手が・連戦連敗・で非常勤講師を渡り歩いている現実を目の当たりにして、定職があるだけマシと思うようにしたけれど、・国にご奉仕した年数・を年功とする序列に嫌気がさしたのも事実である。大学をやり直して出遅れた私は、三十代の後半までアルバイト生活をしていたかのように扱われ、助教授の最下位から二番目の等級からスタートしたため、いくら論文を書いても、いくら本を出しても、定年まで常に下層なのだ。
 もう一つ情けなかったのは、自動車はもちろん自転車にも乗れないので、ほとんどどこにも行けなかったこと。研究会があっても、「○○インターチェンジをおりて、××交差点を右折、△△△m」と書いてあると、どのぐらいのタクシー代がかかるのか心配で、たいてい行くのを諦めた。八年もいたのに、知っているのは大学と富山駅周辺、車で連れて行ってもらった何軒かの食事処、大学のバスで行った立山の青少年自然の家ぐらい。授業や会議以外のほとんどの時間を私は自分の研究室にこもっていたのである。

 そして、安月給を埋め合わすために、各種の助成金に挑戦するという習性を身につけた。「教育の情報化」という追い風のおかげで、文部科学省の研究助成に二回、科学研究費補助金に三回、海外派遣に二回あたり、営業成績にたとえるとかなりの優良社員だったが、等級は経過年数分上がっただけで、悲しいかな、国の年功序列を打ち破ることはできなかった。
 今春、富山では、富山大と富山医科薬科大、高岡短大が独立行政法人として統合し、教育学部も新学部に改組されることが決まった。独立行政法人になると成果主義が導入され、助成金などの獲得状況が評価に対象になると予想されているので、私のような下層クラスが上昇できるかもしれないところだが、その前になんと独法化に伴って音楽科が消滅することになってしまったのである。高岡短大と合併して芸術系学部を作る話を音楽科が不可能と判断したからだ(ただし、下層の私はこの決定には関わっていない)。二つの大学の統合に際して、富山大音楽科が単独で存続することを期待して統合話を拒絶した結果、その期待はもろくも打ち砕かれ、音楽科のみ"お取り潰し"が決定した、ということになる。国の保護に慣れ切った保守派の当然の帰結! サバイバルに必死の一般社会では同情する人もおそらくほとんどいないだろう。

 富山大音楽科にとって来春の受験生が最後の学生となる。数年前に洗足学園魚津短大音楽科も閉鎖されたので、これで県内の音楽教師や音楽家養成機関はなくなり、この不況の時代に、県外に出ないと音楽を学べなくなる――これは教育上大問題であると思う。今年の受験生が大学院に入るとすると六年間は教育機関として存続するけれど、その後の保障はどこにもない。そんな折、京都女子大からラブコールがあったのだ。以上が・いい日旅立ち 西へ〜なぜ私は京都に行くのか・への回答である。

 関西は私の故郷。三十年近く前、私はミュージシャンで医者である北山修にあこがれて京都府立医大を目指して失敗し、当時二期校だった医科歯科に受かって上京することになった。その頃から私にとって京都は一度は住んでみたい町だった。
 富山にいたからこそできたコンピュータの仕事は、十月に発刊した『音楽×ネットワークで大変身!』(明治図書、本誌先月号八四頁参照)で一区切りつけたが、韓国の学校との遠隔交流のコーディネートなどは続けていくつもりである。
 児童学科に所属することが決まってから、時間をみつけては音楽遊びや楽器アンサンブルなどの本を読むようになった。電子楽器による遊びやアンサンブルについて熱心に取り組んでいたヤマハのシステム講師だった頃(一九八六〜八九)を思い出しながら、まったく様変わりした社会状況の下で、子どもの音楽活動についてもう一度じっくりと考えていきたいと気持ちを新たにしている。

 車の免許を取る予定のない私は、京都ではさまざまなアクセスを考えて京都駅の近くの街中に住むつもりである。ほな、今年もよろしゅうお願いしますえ〜。

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