月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2003年2月
難航する生徒募集と変わる年齢構成
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 二〇〇三年のお正月はおせち料理を食べて半年に一度のバーゲンセール三昧をした後、娘と香港に出掛けた。香港では、当分の間は見るのもうんざりというほど中華料理を食べまくって、半年分の化粧品を買い込んだ。衣食が満たされたので(笑)、これから夏までは集中して仕事をするぞ、という気分である。

 さて、今月は、関西の楽器店の重鎮四氏による新春座談会(二〇〇三年一月号、二三〜二八頁)を読んで、印象に残った発言をベースに、私の周辺の出来事をお伝えすることにしよう。

 (1)「楽器業界の最大の課題は、少子高齢化によって人口構成が大きく変わっている現実にどのように対応していくかである」(三木佐知彦さん、三木楽器(株)社長) 

 現在、私の教室(新宿区若松町、深見友紀子ミュージックラボ)では、生徒の最年少が小学校五年生である。幼児期からレッスンを開始して高校三年生まで続けた五、六名がレッスンをやめた二年前の春、ふと気づくと高齢化社会(!)に突入していた。 

 このままではダメと感じ、幼稚園児から小学校低学年の子どもを募集しようとしたが、保護者や子どもの世代が異なり、ほとんど交流がないために口コミの効果は期待できないことがわかった。あるお母さんに聞いてみたところ、「同級生のお母さんに音大を出た人もかなりいるので、とりあえずそこで習うみたいです」との弁。新米ピアノ教師だった私のもとにさえ近所に住む子どもたちが大勢レッスンにやってきた八十年代後半の状況は、夢のまた夢だ。子どもの姿も滅多にみかけなくなった。

 玄関横に生徒募集の貼り紙をしてみたところ、まもなくして我が家の前を通って通勤しているサラリーマン男性が入会した。しかし、半年経った現在、貼り紙を見て入ってきたのはまだその人だけである。ウェブ上にある生徒募集の掲示板にも投稿してみたけれど、大学生の問い合わせが一件あっただけ。大きな楽器店と違って、うちのような個人商店には広報の場もないに等しい。

 前述のサラリーマン以外の入会者は私の仕事関係の知人のみ。S大学の経済学の講師が十月からレッスンを始め、W大学の情報工学の女性講師が近々入会する予定である。一昔前、ピアノを習っているのはほとんど中学生以下だったのに、世の中変われば変わるものだ。二十代後半から四十代もまだ十分に開拓できそうである。 

 (2) 「子どもが少なくなっているのは、これはもう現実で仕方がない。シルバーが中心となっていくのではないか。(中略)楽器店の大半がまだ重い腰をあげていない。田舎に行けば行くほど、ほとんど需要がないし、環境がない。」(朝田俊孝さん、(株)小阪楽器店社長)

 情報には全国共通のものとそうではないものの二通りあって、インターネットの普及により前者が強調される傾向にあるけれど、ピアノレッスンに関しては東京と地方とでは格差があると思う。

 私の勤める富山大学の学生を例にあげると、MIDIデータやMP3は知っていても、レッスンで使用するミュージックデータのことはほとんど知らない。「私たちが習っていた頃と違って随分楽しそうですね」と口を揃えて言う。一般教養の授業で映画「タイタニック」を取りあげた後、その教室にある電子ピアノでタイタニックのテーマを弾くと、「映画のテーマの楽譜が出ているなんて驚きです。」と寄ってくる。

 彼らの大半は八十年代後半から九十年代前半にかけて型通りのレッスンを受けていて、今のトレンドを知らないのだ。私の教室が富山にあればもっと繁盛するかもしれないなと思うと、ちょっぴり残念である。

 大なり小なりピアノに挫折した経験を持っている今の中年世代は、自分の子どもには楽しいレッスンを長く続けてほしいと願ったのと比べて、今の大学生たちは機会があれば自分自身がレッスンに回帰したいと思っている。おそらく、全国に広がりつつある大学のエレクトーンサークルなどの活発な活動もそれを反映しているのではないだろうか。彼らは演奏がうまくなるためには修業が必要であることを十分認識している一方、初心者でも他人の腕前と比較して卑下することは決してない、ある意味では成熟した新世代であると思う。

 (3)「楽器店の音楽教室は、どこか、年間スケジュールに沿って、教えるだけの場で終わってしまっている。」(田中義雄さん、(株)JEUGIA社長)。

 (4)「もう一度楽器店は自らの楽器店としての在り方を考察する必要がある。(中略)自分が力を入れなくてはならない部分はどこなのか、変えなければならない部分はどこか、自ずと見えてくる。」(細川利昭さん、大東楽器(株)社長)。

 香港で中華料理をつつきながら、年間スケジュールもない私の教室のいい加減さを深く反省した。そろそろ本腰を入れてマンネリからの脱出を図らなければ・・・。

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