月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2002年12月
都の西北に増殖するエレクトーンコミュニティ
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 この冬は暖冬との予報が出たばかりだというのに、十月下旬から寒い日が続いている。富山では観測史上最も早く雪が降ったし、局地的豪雨や雷のために北陸線が動かず、早朝東京を出たのに午後一時からの会議に遅刻したりした。東京と富山を往復するようになって七回目の“忍耐の雪の季節”がいよいよやってくる。

 さて今月の話題は、"大学エレクトーンサークル"。本誌七月号での座談会「電子オルガンで学園生活エンジョイ! 全国に広がる“大学エレクトーンサークル”の輪」(十六〜二一頁)の後、編集部の韮塚さんが「この広がりはなかなか面白いよ」としきりにおっしゃっていたのだが、早稲田大学エレクトーンサークル「オーギュメント」(AUGMENT)が早大祭のなかでコンサートを行うことを知り、出かけてみることにした(EL-CONCERT 2002☆W. Festa、十一月四日、早稲田大学十五号館地下教室)。

 六時間に亘って三部構成で繰り広げられたコンサート。昼過ぎに会場に着くと、ちょうど第二部が始まったところだった。しばらく聴いていた私は、新宿西口センターの講師時代(一九八六〜八九)の発表会をフト思い出した。エレクトーンEL-900mが五台並んでいてアンサンブルが多かったのと、部員が揃いのTシャツを着ていたからである。あの頃も発表会になると、生徒たちは連れ立って近くのショップに揃いのTシャツを買いに行っていた。このサークルのメンバーは、当時ちょうど幼児科に通っていたぐらいの年齢だ。私もいつの間にか歳をとったな、と改めて実感した。

 「オーギュメント」の部員五十五人の半数は早大生、残りは他大学の学生。ソロあり、デュエットあり、アンサンブルありと変化に富んでいたし、エレクトーン歴の長い人からほとんど初心者まで、演奏力も実にさまざま。アレンジ面でも荒削りだが面白味があったり、一人ずつソロをとる箇所あったりと工夫しているものが多かった。

 彼らはエレクトーンが好きな若者の集まりであると同時に、年三回の合宿の他、肉の好きなメンバーは二十九日(肉の日)に集まったり、お誕生日会などもやっている、いわば大学生活を一緒に楽しむ仲間でもある。まだ部室がなく、大学内にエレクトーンがないため、練習場所はヤマハ池袋センターとクラッセ、エレクトーンシティ渋谷。特に五台のアンサンブルの練習には、それらの施設のなかでも、大きなサイズの教室やリハーサル室が必要だ。

 彼らの理想は、大学に部室があって、そこにできるだけ多くのエレクトーンを置くこと(第十五代幹事長、早大政経学部、皆川祐輔さん)、上位機種を使ってデータ作成や練習ができる環境があること(明治大商学部、藤井貴之さん)という。「安い値段で、みんながエレクトーンに触れる環境がたくさんあればいい」と語るのは、大学に入学してからエレクトーンを始め、クラッセでバイトをした経験もある第十四代幹事長の、早大教育学部、丸山涼路さん。

 「オーギュメント」では、他大学との交流を活発にしたり、サークル活動やコンサートを告知をするためのホームページを計画中である。また、このサイトの立ち上げと並行して、新春一月十一日にはOB・OGと現役生のコラボレーションコンサートを企画し、“年齢を超えたコミュニティの形成”を図るという。創立十五周年なので、ピアノ愛好家などと比べるとまだまだ若い年齢層のコミュニティではあるが、幼児期・学齢期にエレクトーンを習っていたことを共通項の一つとしてコミュニティが形作られるのは、楽器業界にとっても大変喜ばしいことである。

 さらに、二〇〇二年四月の時点で、北は北海道から南は鹿児島まで十五大学に広がったエレクトーンサークル同士の情報交換の場として、ウェブをベースにしたネットコミュニティ〈EC network〉の設立を準備中。このサイトは、ジョイントコンサートなどの運営や、サークル卒業後の連絡を円滑にするためにも使われる予定である。

 「オーギュメント」にはクラシック、ポップスといった垣根はまったくない。「サポート機能があると豪華になる」と率直に話す一方で、彼らには"鍛錬"という側面も十分にある。「一台でいろいろなことができるのがエレクトーンの魅力だけど、他の人と合わせる楽しみは絶大。一人で弾けない初心者も片手なら一緒にやれるし。」この一言によって、彼らの見せ場である体育会系ノリのリレーアンサンブルは、三段鍵盤をフル活用しなくてはもったいないという"旧エレクトーン人"の固定観念を圧倒するのだ。
 紙面が残りわずかになった。学校音楽文化と学校外音楽文化との間のグレーゾーンの活動の活性化、エレクトーン音楽のサブカルチャー化などといった社会学的な考察は、またの機会に行うことにしよう。

top > プロフィール > 月刊『ミュージックトレード』に連載したコラムのバックナンバー > 2002年12月

Valid XHTML 1.1 Valid CSS!