月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2002年10月
日韓コンピュータ音楽教育関係者が集う - その1
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 この夏、「富山大学教育学部廃止」という新聞報道があった時は、「××証券倒産」みたいな印象でショックだった。実際は、富山医科薬科大学、高岡短大との統合が進むなかで、教育学部は一般学部に改組する方向なのだが、統合に際して大学間の利害がぶつかるのは必至だろうし、どのキャンパスで教えるのか、どの程度負担が増えるのかなど何一つさっぱり見通すことができない。"縮みっぱなしの教育学部"―不安を通り越して諦めの境地に近い。

 さて、暗い話はこの程度にして、今月は韓国の音楽教師たちの日本研修旅行(八月二十一日〜二十四日先月号八十一頁参照)のうち、初日の芝学園高等学校での研修「音楽教育におけるメディア活用の事例紹介とさまざまな可能性について」の模様を報告することにしよう。

 この研修旅行は、韓国の音楽教育の研究会KCME(the Korea Society of Computer Music Education )と日本のミュージカル・プラン、韓国のユーリー・ソフトウェアの協力によって実現したものであるが、ミュージカル・プランの外部研究員をしている小林田鶴子さんからこの催しを知り、見学させてもらうことになった。

 初日の日本側講師は、橋本俊彦さん(金沢市立鞍月小学校教諭)、齊藤忠彦さん(信州大学教育学部講師/元中学校教諭)、瀬戸宏さん(東京都立井草高等学校教諭)。入国手続きで手間取り、到着が予定より遅れたため、小林田鶴子さんのレクチャー「日本の音楽教育でのメディア活用の概要」は移動のバスの中で行われた。いずれもコンピュータを使った音楽の授業実践で活躍する方々である。

 まず橋本さんは、この春から施行されている新学習指導要領、学校週休二日制に伴う授業時数の削減などについて触れた後、少ない授業時間で、音楽を愛好する心情を育て、子どもたちに音楽への興味・関心を持たせ、さらに音楽的な技能の定着と向上を図ることが求められていると主張。そのためには、創作活動の支援、創作曲の保存と共有化、試行錯誤で身に付く音楽性などの点で、コンピュータを活用することが有効であるとまとめた。

 橋本さんが紹介した実践は、音楽科と「総合的な学習の時間」との連携例、「With You〜ともに歌おう」と「聞こえますか 地球からのメッセージ」。特に後者は環境教育の一環としての音楽創作活動であり、今後注目すべき方向性であるだろう。

 十三年間中学校に勤務した経験がある齊藤さんは、中学校教諭時代の事例として、コンピュータで作った生徒のオリジナル曲を全校合唱曲に編曲し、みんなで歌ってCDにした実践、テレビ会議システムを使った他県の中学校や地元の老人福祉センターとの交流を報告。また、最近の活動として、信州大学と附属学校とのテレビ会議システムを用いた交流を紹介した。ネットワークを使った大学と附属学校との共同研究は最近全国で盛んに行われているが、音楽の実践はまだ非常に少なく、齊藤さんは希有な存在だ。

 この日初めてお目にかかった瀬戸先生は、昨年度まで八年間在職した都立立川高校の「音楽」選択者のDTM作品十二曲を披露した。効果音を多用しすぎている曲もあったものの、平調子音階を使ったもの、対位法的な音の動きを工夫したもの、洒落たタイトルがついているものなどがあって、通常の音楽授業で作ったものとは到底思えないレベルの高さである。

 瀬戸先生自身がDTMに詳しいだけではなく、ガムランをはじめ、世界の音楽に造詣が深いことが、生徒たちの音楽性に良い影響を及ぼしているに違いない。これらの作品の出来映えには韓国の教師たちもかなり驚いている様子だった。

 韓国側は、ソウル教育大学音楽教育学部のチャン・キブン教授がKCMEで開発した、中学一年生から高校一年生までのオンライン教材を紹介した。写真などのイメージ資料、楽譜資料(ミュージカル・プランのMusic Proを使用)、サウンド資料、演奏法の解説アニメーション、作曲家の資料など実に多彩で、意欲的である。

 私が開発に参加した「オンライン音楽室」に似たコンテンツもあったし、授業用のネットワーク映像ライブラリーを制作する際に参考になると思われるものもあった。Information Communication Technology の音楽教育での利用は、世界共通の課題であるといえる。

 この研修を成功に導いた要因の一つに、日本語の達人であるユーリー・ソフトウェアのユーリー・ホン社長の存在があった。

 研修後、銀座の寿司屋で懇親会が行われた。会場への車中、韓国の女性教師が、燦々と輝くエルメスのビルを見て「ステキですね」と言っていたけれど、どうしても私にはあのビルは”地下鉄のトイレを巨大にした箱”に見える・・・。

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